妻を殺してもバレない確率
『妻を殺してもバレない確率』桜川ヒロ
(あらすじ)未来に起こることの確率を調べられる未来予測システム。毎日妻を殺してもバレない確率を調べる夫が、確率が90%を超えた時に取った行動とは?
短編7篇全て感動してしまった。中でも「妻を殺してもバレない確率」が一番好きかなー。
一番泣いたのは「明日、世界が終わる確率」かも。なぜ泣いたのか自分でもよく分からない。気づいたらティッシュ片手に読んでいた。
もし、自分が未来予測システムを使うなら何に使うだろうか、考えてみた。…全く思いつかない。未来は分からないから楽しい。
あの日の花火を君ともう一度
『あの日の花火を君ともう一度』麻沢奏
(あらすじ)律紀と付き合い始めた美緒は日記をつけ始める。日記帳の裏側を見ると、律紀の親友の洞哉と付き合っていた。"もう一つの世界"の自分とやりとりできることに気づいた美緒はもう一人の自分と交換日記を始める。
誰かの幸せは誰かを傷つけていることは往々にしてあることだ。誰かが合格していれば不合格になる人がいるように、誰かを好きな人が複数いれば恋がかなわない人が出てくるように。
人生には優先順位を決めて選択しなきゃならないことは沢山ある。違う選択をした場合のパラレルワールドの方がよく見えることもある。でどれだけ後悔しても違う選択をした自分には会えない。
美緒は結果的にまた大事な人を失うことになった。人の生死を自分の後悔をなくすために操ってはいけないと思う。でもどこかで、美緒の選択の結果の切なさと強さに心惹かれてしまうのである。
ユートピア
(あらすじ)
小学一年生の久美香は交通事故で車椅子生活を送っている。陶芸家のすみれは久美香のことを知り、車椅子利用者のためのブランドを立ち上げて天使の翼のストラップを販売。そこに久美香が実は歩けるという噂が流れ…。
一番強かだったのは、彩也子だったのか。
自分より年下で、さらに車椅子という弱い者を守ることで、自分の評価が上がることを十分に分かっている。
私に似ている。自分よりヒエラルキーが低くて人見知りのために一人でいる人を狙って声をかけて友達になる、ってことをしていた。〇〇ちゃん優しいって言われるけど、本当は違う。友達がいなくて寂しいのは私の方なのに。そして、守るつもり
で守られてるのは私の方なのに。
彩也子もきっとそうだ。優等生の殻を破れば空っぽ。強かだけど、それは自分に自信がないことの裏返しだ。本当に強かなのは菜々子だろう。
人は皆、自分本意で自分勝手なのだと思う。湊かなえはそれを描くのがすごく上手いと思う。
『告白』で衝撃を受けたけど、『贖罪』とかもそうかな。
天使の卵
『天使の卵ーエンジェルス・エッグ』
『天使の梯子』
『天使の柩』 村山由佳
(あらすじ)
19歳の予備校生の歩太は8歳年上の春妃と恋に落ちる。春妃は元彼女の夏姫の姉で…。
重い。登場人物みんな不幸だ。特に茉莉かな。
可哀想とか不幸って言葉は嫌いだけども。
可哀想なんてすごく上から目線。お前何様って感じ。不幸なのは自分にとっては一番自分が不幸なんだし、幸せなのも自分にとっては自分が一番幸せだ。幸せも不幸も競争できないってこと。ただ、想像力を持ち合わせていれば共有することはできる。
さて、『天使の梯子』『天使の柩』はそれぞれ『天使の卵』の10年後、14年後の話だ。実際にほぼ同じくらいの時間が経ってから書かれているっていうのがすごいと思う。
それにしても、歩太は恋人の死をそんなに引きずってたのか(引きずることに作者は決めたのか、が正しいけど)。有川浩の『図書館戦争』の言葉を借りれば「心が振れない」のかもしれないが。それならそこまで好きになれる恋愛は羨ましいけども。
人は誰しも死ぬ。それが年齢の老齢順なら好ましい。でも、そればかりはうまくいかないことも多々ある。いずれにせよ備えることはなかなかできないだろうが、残されたものは生きる責務があるのだろう。忘れないことと後悔することは全く違う。きっと死んだ人はそれが大事な人であればあるほど、残された人に先に進んで欲しいと思っているような気がする。
過ぎ去りし王国の城
『過ぎ去りし王国の城』宮部みゆき
(あらすじ)
真はヨーロッパの古城のスケッチを手に入れる。これは分身を描き込むと絵の世界に入り込めるスケッチだった。分身の絵を描くことになった美術部員の珠美と、漫画家アシスタントのパクさんを加え、3人でスケッチの謎にせまる。
小説の中に入れるとか、絵の中に入っちゃうとかいった話はよくある。そんな中、その絵を誰が何のために描いたのかを考える、そしてそれが10年前の少女の失踪事件とからめるあたり、さすが宮部みゆきだなぁと思った。
ずっと時を止めて安全で素敵な場所にいるのは楽だけど、人は前に進まなきゃならない。それが退化か進化か分からないけども。
私は今の生活にそれなりに満足してる。実はあの頃に戻りたいってのが全くない。それは今が幸せだからと言われればそうなのかもしれないが、あの時のああしていればというのはたくさん(人並みに?)ある。ただ、選択を変えて今とは違う世界になったとしても、そこからまた今までの人生を戻ってくるのが面倒だし疲れる。色々諦めてるし、怠惰なのだろう。
長ーいミステリ(『模倣犯』とか)を書かせても、ゲーム好きを公表しているからかRPGみたいなの(『ICO』とか『ブレイブストーリー』もか?)を書かせても秀逸だけど、今回は冒険あり、ミステリありって感じで一気読みしてしまった。